リサイタルプログラム解説(第1部)
- ひでみ
- 2019年8月20日
- 読了時間: 4分
*****レスピーギについて*****
オットリーノ・レスピーギ(1879-1936)
ボローニャで学んだ後、1900年に入りロシアを訪れリムスキーコルサコフに師事し管弦楽法の点で多大な影響を受けた。20世紀の最初の十年間、レスピーギは弦楽器奏者、ピアニストとして広く活躍。当時無視されていた古いイタリア音楽に関心を持つようになった。
相当な教養人ではあったが、夫人による伝記にもあるように、彼は気持ちの上ではすこぶる単純で子どもっぽくさえあった。彼は思索家というよりは、熱心な観察者であり、特に視覚的な印象に敏感であった。そのため当然、彼の作品の最良の側面は「感覚的」なものになりがちであった。オーケストラの鮮やかな色彩の追求など。さらに深い感情が音楽の華やかな表面を突き破るときでも、それはしばしば新鮮でまばゆい子どもの感情を思い起こさせる彼の欠点も子どもっぽく見える。
*****ダヌンツィオについて*****
ガブリエーレ・ダヌンツィオ(1863-1938)というイタリアの詩人。ダヌンツィオは政治家や劇作家としても名をはせた人物だった。しかし、その放蕩から多額の債務を負い、そこから逃れるためにフランスへ亡命する。そこでは作曲家ドビュッシーとも意気投合したようだった。ファシストであったダヌンツィオは第一次世界大戦を機にイタリアへ帰国。志願し、戦闘機パイロットとして参戦したと言われている。文学に関しては、高い独創性と力強さ、そしてその退廃的な表現が高く評価されている。
*****4つの抒情詩*****
私の、この作品に対する第一印象は「綺麗」だった。まず、ピアノが美しい。音の選び方、重ね方や響き方が、透き通ったり濁ったりと変幻自在の色彩だ。それを補填するようにイタリア語が見え隠れする。声楽のメロディーは一番最後のちょっとした添え木の役割で、それが主になることは一切ない。が、料理の最後の一手の金箔のような役割がある。「綺麗」な世界が見えた気がした。
抽象的で、何をどのようにも説明できない作品のように思ってしまうが、ぜひとも皆さんにはこの世界に「浸って」もらいたい。水に身体全部が浸ると呼吸がなくなり自分ではなくなる。正解など何もなく、ただ浸って感じてほしい。それが飽和すると、何かが「見えてくる」。以下、4曲それぞれの解説。
1、 夢
夢心地、という言葉がふさわしいような、ピアノパートに引かれるようにして声楽パートが入ってくる。
2、 ナイアデ
ギリシャ神話に登場する妖精で、「ナーイアス」とも呼ばれる。川や泉のニンフ(精霊)とされている。このナイアデのいる川や泉の水を飲むと病気が治るが、水に入ることは冒涜とみなされ、呪われたり病気になったり、気が狂ったりする。
この曲では、泉の底から水がゴボゴボと湧く様子がピアノで表現されている。
3、 夕べ
冒頭部分、ピアノ低音部分に印象的な音の形が表れる。それは、この曲の間ずっと流れている。とても簡単なリズムでずっと同じ音程なのだが、一本緊張の糸が張っている感じがあり、どこにも緩む場所が見当たらない。歌詞の内容は断片的で、「狂気・恐怖」というイメージが当てはまり、日常ではありえないような状況を想起させる。
4、 遠い昔の歌に寄せて
この4曲の中で、一番よく演奏される作品。とあるイタリア古典歌曲をベースに構築されている。歌のパートと対になって、ピアノパートがそのメロディーを奏でている。そこにもご注目いただきたい。この詩には、男と女が登場している。話を進めているのは男で、「遠い昔の古い歌が聞こえないか?木の棺の底からお前の言葉が立ち昇る。」という初めの部分。「あなたは私をだましている!あなたは私を愛していないのね。だけど、私を棄てる前にあなたの胸で死なせて!」と女が発言する中間部。「奥深い天蓋、そしてベッドは墓場のように暗い」という現状の説明の後、「開いたバルコニーから遠くのうねった川や、燃えるような光、夏の日の風を感じた。遠くの果樹園では豊満な女たちが官能的な花の間を歌いながら回っていた」という、なんとも説明のしようがない歌詞がつづられている。
どこに根拠があるわけでもないが、私がこの詩から、「女を殺してしまった男」が次第に狂っていく様子が描かれているのではないかとイメージした。「殺された女」は時が経つにつれ、「白髪になり、唇はしわしわ」になり、「あなたが私を愛していないのは知っている。だけど、きっと明日になれば私の事を愛してくれる」と、男に呼びかける。狂った男の回りには「川や光、風」等の日常が、何も変わらずに、いつも通りにそこにある。その対比の激しい差が生み出す、異様な景色。ここに、レスピーギが情景描写的な音楽をつけて、この世界観を音で表現している。私はそんなように感じた。
なんとも、取り留めもなくなってしまったが、「遠い昔」のとある「狂気」が表現出来たらと思う。
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